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[G-P-50]紀伊水道における粒度,元素による完新世の時空間的な堆積環境の変化

*天野 敦子1、清家 弘治1 (1. 産業技術総合研究所)
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キーワード:

粒度、元素、堆積過程、完新世、紀伊水道

 沿岸域は海域と陸域の両者の影響を受けて複雑な物質循環過程を呈し,氷期―間氷期サイクルに伴う海水準変動や近代における人間活動の影響を受けて劇的な環境変化を生じる.太平洋と瀬戸内海に位置する紀伊水道は沿岸と外洋の海水の影響を受ける環境で,これら水塊の影響を受けて環境変化が生じていると推測される.本研究は紀伊水道の29地点の表層堆積物を用いた粒度と元素濃度を基に現在の堆積過程と海底環境について,また紀伊水道北東部の紀ノ川沖合の1地点で採取したコア長さ346 cmの柱状堆積物を用いて完新世の環境変遷について検討した. 表層堆積物の粒度分布は徳島沿岸域を含む本調査海域の西部と北東部の沼島東方海域では6~7φの本結果では最も細粒な細粒シルトが,和歌山の沿岸海域と南東部では4~6φの粗粒シルトが分布し,太平洋との接合する南部と北部の紀淡海峡,鳴門海峡の周辺では2φ以下へと粗粒化することを示す.全有機炭素(TOC),全窒素(TN)濃度と有機物起源の指標となるC/N比は紀伊水道の沿岸付近で相対的に高く,中央部に向かって減少する傾向を示し,特に徳島,吉野川河口沖合ではTOC,TN濃度が高いことを示す.紀伊水道の夏季において,太平洋の高塩分海水は紀伊水道東部を北上し,紀淡海峡,鳴門海峡を通過して流入した低塩分海水や徳島の河川水と混合しながら西部を南下する(藤原,2012).この海水流動が粒度分布と相似することから,太平洋からの流れや波浪の影響を受けて南部では礫,粗粒砂の粗粒な堆積物が分布し,これら影響が南東部を北方へ向かって弱くなることに伴い堆積物は細粒化し,北東部~東部は内湾のような停滞的な環境で,細粒シルトが分布しているといえる.紀淡海峡,鳴門海峡周辺は海峡部の速い潮流によって粗粒化している.また,TOC濃度,C/N比は河川を通じて供給される陸減有機物が沿岸付近に堆積し,特に吉野川の沖合では多く堆積していることを示す. 岩相記載と粒度,XRFコアスキャナーによる元素(Si,K,Ti,Fe,Cu,Zn,Br,Ca),TOC,TN,TS濃度のプロファイルを基に,紀ノ川沖の柱状堆積物は大きく3層に区分できる.コア深度346~275cmの下部層は3~4φの貝殻片を多く含む細砂~砂質シルトから成る. Si, K Ti,Feは相対的に高く,Br やTOC,TN,TS濃度は低い.深度275~89cmの中部層は5-6φの砂質シルトからなり,Si,K,Ti,Feは下部層から減少,反対にBrとTOC濃度は増加する傾向を示す.コア深度114~0cmの上部層は主に6-7φのシルトから成る.Cu,ZnとTOC,TN濃度は上方にかけて増加する傾向を示す.14C,210Pb,137Cs年代結果は、下部層は8.5~7.6 cal kyr BP、中部層は7.6-0.5 cal kyr BP、上部層で0.5 cal kyr BP以降であることを示す。下部層から中部層の粒度や元素の変化は、海水準の上昇に伴い海底へ水理営力の影響が減少したことを示唆する.また上部層の元素の増加は20世紀における人為的な影響による重金属汚染や富栄養化を示す.引用:藤原(2012)紀伊水道・豊後水道・響灘と瀬戸内海.瀬戸内海,No.64, 4-9.