講演情報
[G-P-2]根田茂帯綱取ユニットにおける砕屑性ジルコン複合化学分析にもとづく付加体形成史と前期-中期古生代アジア大陸東縁部火成活動の解明★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
*中野 竜1、青木 翔吾1、内野 隆之2、福山 繭子3、昆 慶明4 (1. 秋田大学大学院 国際資源学研究科、2. 産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地質情報研究部門、3. 秋田大学大学院 理工学研究科、4. 産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境部門)
キーワード:
根田茂帯、前期石炭紀、砕屑性ジルコン、U-Pb年代、微量元素
日本列島を含むアジア大陸東縁部は,約5.2億年前に受動的大陸縁から活動大陸縁に移行し,それによって形成された付加体や花崗岩バソリスベルトによって特徴づけられる.活動的大陸縁への移行後のテクトニクスや沈み込み帯内部の物質構造の進化は,それら付加体や火成岩体の地質学あるいは地球化学的な情報から推定することができる.しかし,構造侵食等の地殻改変作用により,現在の日本列島を含めたアジア大陸東縁部に残されたペルム紀以前の地質記録は限定的であるため,その当時の地質構造発達史の理解は困難である.
東北日本の北上山地中央部には,南部北上帯と北部北上帯に挟まれて,前期石炭紀と後期ペルム紀-前期三畳紀の付加体から構成される根田茂帯が狭長に分布する (永広・鈴木, 2003; 内野ほか, 2005; Uchino, 2021).本研究では,根田茂帯綱取ユニットに分布する砕屑岩に着目し,その岩石学的特徴や砕屑性ジルコンのU–Pb年代・微量元素組成に基づき,前期石炭紀アジア大陸東縁部における火成岩の年代分布や地殻化学組成の推定を試みた.綱取ユニットの砂岩は,ユニットの主岩相である珪長質凝灰岩泥岩互層中に厚さ数mから十数mでレンズ状に散在する.それらの砂岩は,構成粒子のモード組成に基づき,主として火山岩岩片から構成される“火山性砂岩” (QmFLt三角図上でLt成分が90%を超えるもの)と,石英粒子と堆積・火山岩片を豊富に含む岩片質砂岩 (Qm成分が10-20%,Lt成分が80-90%)に大別される.本研究では,岩片質砂岩5試料と火山性砂岩2試料から,それぞれ558粒子と97粒子のジルコンを分離し,秋田大学大学院理工学研究科に設置されたLA-ICP-MSを用いてU–Pb年代測定を行い,ジルコンの結晶化年代のデータ分布をヒストグラムで表した.その結果,火山性砂岩と岩片質砂岩に含まれる砕屑性ジルコンは共に400-3000 Maの広い年代値を示し,400-500 Maに大きなピークを形成する.そして,綱取ユニット形成年代である前期石炭紀の年代値を示すジルコンは少ない, あるいは含まれていないことがわかった.このような特徴は同時代に形成された,西南日本低温高圧型変成岩である蓮華帯や黒瀬川帯の砂質片岩に含まれるジルコンのコア年代においても見られる (Tsutsumi et al., 2003, 2011; Yoshida et al., 2020; Matsunaga et al., 2021) .したがって,根田茂帯綱取ユニット,蓮華帯,黒瀬川帯は後背地に同じ400-500 Maの火成岩が分布する同一の弧-海溝システムで形成されたことを示す.また,これらの3地質帯の(変)砕屑岩に堆積年代と同じ年代値を示すジルコンがほとんど含まれないことは, 前期石炭紀のアジア大陸東縁部に同時代の花崗岩バソリスが露出していなかったことを示唆する.
さらにU–Pb年代測定を行った綱取ユニットジルコンに対して,微量元素測定を行ったところ,450-500 MaのジルコンのU/Yb比は1.00前後の値をとり,450 Ma以降は400 Maまで0.58程度まで減少する経年変化を示した.ジルコンのU/Yb比は,ジルコンを結晶化させたマグマを形成した地殻の成熟度を表す指標になる (Grimes et al., 2007;Grimes et al., 2015など).本研究で示された砕屑性ジルコンの年代ヒストグラムとU/Yb比の経年変化は,450 Ma以降に後背地の成熟した大陸地殻の除去と未成熟な地殻の形成が起き,花崗岩形成プロセスが弱化した可能性を示唆する.本発表では,綱取ユニット砕屑岩の全岩化学組成やジルコンHf同位体比などのデータも示しながら,カンブリア紀から前期石炭紀までのアジア大陸東縁部における地殻の化学組成的進化について,より詳細に議論をする.
【引用文献】永広・鈴木 (2003), 構造地質 vol.47, 13-21; 内野ほか (2005), 地質学雑誌 vol.111, 249-252; Uchino (2021), Island Arc, 30, e12397; Tsutsumi et al. (2003), JMPS vol.98, 181-193; Tsutsumi et al. (2011), Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., C, vol.37, 5-16; Yoshida et al. (2020), J. Metmorph. Geol. vol.39, 77-100; Matsunaga et al. (2021), Lithos, vol. 380-381, 105898; Grimes et al. (2007) Geology, 35(7), 643–646; Grimes et al. (2015) CMP, 170(5–6), 1–26
東北日本の北上山地中央部には,南部北上帯と北部北上帯に挟まれて,前期石炭紀と後期ペルム紀-前期三畳紀の付加体から構成される根田茂帯が狭長に分布する (永広・鈴木, 2003; 内野ほか, 2005; Uchino, 2021).本研究では,根田茂帯綱取ユニットに分布する砕屑岩に着目し,その岩石学的特徴や砕屑性ジルコンのU–Pb年代・微量元素組成に基づき,前期石炭紀アジア大陸東縁部における火成岩の年代分布や地殻化学組成の推定を試みた.綱取ユニットの砂岩は,ユニットの主岩相である珪長質凝灰岩泥岩互層中に厚さ数mから十数mでレンズ状に散在する.それらの砂岩は,構成粒子のモード組成に基づき,主として火山岩岩片から構成される“火山性砂岩” (QmFLt三角図上でLt成分が90%を超えるもの)と,石英粒子と堆積・火山岩片を豊富に含む岩片質砂岩 (Qm成分が10-20%,Lt成分が80-90%)に大別される.本研究では,岩片質砂岩5試料と火山性砂岩2試料から,それぞれ558粒子と97粒子のジルコンを分離し,秋田大学大学院理工学研究科に設置されたLA-ICP-MSを用いてU–Pb年代測定を行い,ジルコンの結晶化年代のデータ分布をヒストグラムで表した.その結果,火山性砂岩と岩片質砂岩に含まれる砕屑性ジルコンは共に400-3000 Maの広い年代値を示し,400-500 Maに大きなピークを形成する.そして,綱取ユニット形成年代である前期石炭紀の年代値を示すジルコンは少ない, あるいは含まれていないことがわかった.このような特徴は同時代に形成された,西南日本低温高圧型変成岩である蓮華帯や黒瀬川帯の砂質片岩に含まれるジルコンのコア年代においても見られる (Tsutsumi et al., 2003, 2011; Yoshida et al., 2020; Matsunaga et al., 2021) .したがって,根田茂帯綱取ユニット,蓮華帯,黒瀬川帯は後背地に同じ400-500 Maの火成岩が分布する同一の弧-海溝システムで形成されたことを示す.また,これらの3地質帯の(変)砕屑岩に堆積年代と同じ年代値を示すジルコンがほとんど含まれないことは, 前期石炭紀のアジア大陸東縁部に同時代の花崗岩バソリスが露出していなかったことを示唆する.
さらにU–Pb年代測定を行った綱取ユニットジルコンに対して,微量元素測定を行ったところ,450-500 MaのジルコンのU/Yb比は1.00前後の値をとり,450 Ma以降は400 Maまで0.58程度まで減少する経年変化を示した.ジルコンのU/Yb比は,ジルコンを結晶化させたマグマを形成した地殻の成熟度を表す指標になる (Grimes et al., 2007;Grimes et al., 2015など).本研究で示された砕屑性ジルコンの年代ヒストグラムとU/Yb比の経年変化は,450 Ma以降に後背地の成熟した大陸地殻の除去と未成熟な地殻の形成が起き,花崗岩形成プロセスが弱化した可能性を示唆する.本発表では,綱取ユニット砕屑岩の全岩化学組成やジルコンHf同位体比などのデータも示しながら,カンブリア紀から前期石炭紀までのアジア大陸東縁部における地殻の化学組成的進化について,より詳細に議論をする.
【引用文献】永広・鈴木 (2003), 構造地質 vol.47, 13-21; 内野ほか (2005), 地質学雑誌 vol.111, 249-252; Uchino (2021), Island Arc, 30, e12397; Tsutsumi et al. (2003), JMPS vol.98, 181-193; Tsutsumi et al. (2011), Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., C, vol.37, 5-16; Yoshida et al. (2020), J. Metmorph. Geol. vol.39, 77-100; Matsunaga et al. (2021), Lithos, vol. 380-381, 105898; Grimes et al. (2007) Geology, 35(7), 643–646; Grimes et al. (2015) CMP, 170(5–6), 1–26
コメント
コメントの閲覧・投稿にはログインが必要です。ログイン