講演情報
[SYB4-05]NARO乳酸菌コレクションの整備と菌株選抜への活用
*冨田 理1 (1. 農研機構 食品研究部門)
キーワード:
乳酸菌、発酵食品、データベース、ゲノム
【講演者の紹介】氏名: 冨田 理(とみた さとる)略歴: 2010年 東京農業大学大学院 農学研究科 農芸化学専攻 博士後期課程修了.2011年Top Institute Food and NutritionおよびNIZO food research, Health Division, Postdoc researcher.2013年 農研機構食品総合研究所食品分析研究領域 特別研究員を経て2015年 応用微生物研究領域 任期付研究員.その後、2018年 農研機構食品研究部門食品生物機能開発研究領域 主任研究員を経て,2024年より食品加工・素材研究領域 上級研究員
乳酸菌は,世界中で幅広い発酵食品の製造に関わる有益な微生物の一群であり,また,歴史的な食経験から安全性の高さが広く認知され,その健康増進効果の研究・利用が盛んに進められている.乳酸菌の基礎的な分離培養技術が普及した時代からみて,現在ではDNAシークエンスやゲノム編集など飛躍的な技術革新が生じている.とはいえ,乳酸菌を利用する研究開発において,生きた微生物資源,すなわち菌株コレクションから優良菌株を選抜しようという試みは,現在でも実用的な戦略の一つである.農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構,NARO)は12の国立研究機関を統合・再編する形で2001年4月に設立され,その後も2016年までに6機関との統合を経て,現在の組織体制へと至っている.近年,その複数の研究拠点で過去に収集された分離菌株を「NARO乳酸菌コレクション」として統合・一元管理を進めるとともに,内外の発酵食品研究に役立てることを目的としてデータベースの運用を開始した.現在,NARO乳酸菌コレクションとして集約された菌株数は6,000を超える.そのほとんどは分離源が明らかであり,約3,000菌株が農作物や発酵食品などの食品を由来とし,残りの約3,000菌株は動物消化管や飼料,植物やキノコなどの非食品から分離された.食品由来株に注目すると,植物質(野菜・穀物・果実)に関連する分離株が中心であるが,その内訳には少なくとも70種に及ぶ漬物類が含まれる.したがって新規特性や望ましい性質を有する菌株の存在を期待させるが,研究リソースが限られる中では,数千株の中から供試菌株を選択する判断材料に乏しい.そこで当コレクションでは,データベース上での予備選抜を可能とする各種の特性情報(メタデータ)を収集しシステム構築を行った.本稿執筆時点,NARO乳酸菌コレクションの系統分類学的データとしては乳酸菌群のLactobacillales目を構成する6科すべてに渡る約31属191菌種が含まれる.さらに,ゲノム解析を基にアノテーションされた遺伝子情報やタンパク質機能およびドメイン情報も500菌株超が格納されている.生理生化学的および発酵特性データとしては,主に,分離株が生育に利用できる糖類資化性情報,牛乳および豆乳の発酵能(凝固・到達pH),豆乳中での主要な代謝物生産・変換能(約30成分)などの情報を収集した.また,機能性データとして,マウス由来細胞株に対するIL-12遺伝子の発現誘導能が中心に格納されている.NARO乳酸菌データベース(https://lacticbacteria.nfri.naro.go.jp)ではこれらの特性情報を横断的に検索可能であり,目的とする乳酸菌の探索を省力化できる.筆者が担当した発酵豆乳の成分分析では約3,000菌株のデータを収録した.個別の代謝物を標的にした検索にはもちろんのこと,標的のない探索にも有用である.たとえばLactiplantibacillus属の分離株数は数百に及ぶが,代謝物プロファイリングによってこれらは約10の異なるクラスターへ分類される.この予備選抜により実質的に遺伝的背景の相違する菌株を選択できるため,時間的・経済的コストの低減が期待できる.本データベースをさらに拡充していくとともに,微生物資源の拠点としてNARO乳酸菌コレクションが研究開発に役立つよう活動を継続して行っている.
乳酸菌は,世界中で幅広い発酵食品の製造に関わる有益な微生物の一群であり,また,歴史的な食経験から安全性の高さが広く認知され,その健康増進効果の研究・利用が盛んに進められている.乳酸菌の基礎的な分離培養技術が普及した時代からみて,現在ではDNAシークエンスやゲノム編集など飛躍的な技術革新が生じている.とはいえ,乳酸菌を利用する研究開発において,生きた微生物資源,すなわち菌株コレクションから優良菌株を選抜しようという試みは,現在でも実用的な戦略の一つである.農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構,NARO)は12の国立研究機関を統合・再編する形で2001年4月に設立され,その後も2016年までに6機関との統合を経て,現在の組織体制へと至っている.近年,その複数の研究拠点で過去に収集された分離菌株を「NARO乳酸菌コレクション」として統合・一元管理を進めるとともに,内外の発酵食品研究に役立てることを目的としてデータベースの運用を開始した.現在,NARO乳酸菌コレクションとして集約された菌株数は6,000を超える.そのほとんどは分離源が明らかであり,約3,000菌株が農作物や発酵食品などの食品を由来とし,残りの約3,000菌株は動物消化管や飼料,植物やキノコなどの非食品から分離された.食品由来株に注目すると,植物質(野菜・穀物・果実)に関連する分離株が中心であるが,その内訳には少なくとも70種に及ぶ漬物類が含まれる.したがって新規特性や望ましい性質を有する菌株の存在を期待させるが,研究リソースが限られる中では,数千株の中から供試菌株を選択する判断材料に乏しい.そこで当コレクションでは,データベース上での予備選抜を可能とする各種の特性情報(メタデータ)を収集しシステム構築を行った.本稿執筆時点,NARO乳酸菌コレクションの系統分類学的データとしては乳酸菌群のLactobacillales目を構成する6科すべてに渡る約31属191菌種が含まれる.さらに,ゲノム解析を基にアノテーションされた遺伝子情報やタンパク質機能およびドメイン情報も500菌株超が格納されている.生理生化学的および発酵特性データとしては,主に,分離株が生育に利用できる糖類資化性情報,牛乳および豆乳の発酵能(凝固・到達pH),豆乳中での主要な代謝物生産・変換能(約30成分)などの情報を収集した.また,機能性データとして,マウス由来細胞株に対するIL-12遺伝子の発現誘導能が中心に格納されている.NARO乳酸菌データベース(https://lacticbacteria.nfri.naro.go.jp)ではこれらの特性情報を横断的に検索可能であり,目的とする乳酸菌の探索を省力化できる.筆者が担当した発酵豆乳の成分分析では約3,000菌株のデータを収録した.個別の代謝物を標的にした検索にはもちろんのこと,標的のない探索にも有用である.たとえばLactiplantibacillus属の分離株数は数百に及ぶが,代謝物プロファイリングによってこれらは約10の異なるクラスターへ分類される.この予備選抜により実質的に遺伝的背景の相違する菌株を選択できるため,時間的・経済的コストの低減が期待できる.本データベースをさらに拡充していくとともに,微生物資源の拠点としてNARO乳酸菌コレクションが研究開発に役立つよう活動を継続して行っている.
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